「研究における利益相反(COI)に関する規程」
【序文】
自然科学の向上・発展には技術革新が求められる.技術革新を絶え間なく続けて行くには研究機関だけに留まらず,企業と研究機関との包括的連携,即ち産学連携の促進が必要である. しかし産学連携の結果,研究成果を社会に還元するという公的利益に対し,金銭や利権といった私的利益が発生する場合がある.この2つの利益はしばしば相反するものであり,この状態が研究者個人に生じた場合を利益相反(conflict of terest: COI)と呼ぶ.産学連携が進むほどに,COIは必然的に発生するとも言えるが,これが法律問題に該当する場合には規制を受ける.しかし法的規制の枠外にある行為にも,COI状態が発生する可能性がある.COI状態が深刻になれば 研究成果が歪められるおそれが生じるだけではなく,臨床研究であれば被験者の生命が脅かされることにつながる.また一方で,適切な研究成果であるにもかかわらず,正当かつ公正な評価がなされないことも起こるかもしれない.
本邦では文部科学省が 2004 年 8 月に「臨床研究・臨床試験における COI への対応」の会議を開催,そして 2006 年 3 月には「臨床研究倫理と利益相反に関する検討班」による「臨床研究の利益相反ポリシー策定に関するガイドライン」が公表された.多くの大学ではこれらを参考に自主基準を設け,各臨床研究者はCOI 申告書を所属大学に提出してマネージメントを受けていると思われる.更に厚生労働省も 2008 年 3 月に「厚生労働科学研究における利益相反(Conflict of Interest:COI)の管理に関する指針」を出しており,ほぼ全ての研究者はそれに従うことが求められている.ところで,COI は臨床研究だけに限らず,基礎医学研究でも起こりえる.このような経緯で,2011年2月,日本医学会は「医学研究の COI マネージメントに関するガイドライン」を公表し,さらに2017年3月には改正され,日本医学会分科会である各学会に対して諸整備を求めてきた.
本学会員においても,単に企業の株式保有や法人役員の兼職といった一般的COI状態以外にも DNA解析等の研究において,ある特定の企業から一定額以上の寄附金受け入れや共同・受託研究,高額機器の貸与や業務委託等があれば,その成果を論文報告する場合やその法人等の援助を受けて講演を行う場合,COIの問題が発生する可能性がある.少なくとも民間企業が関係する成果に対し,その中立性に関する情報は研究者自身が積極的に開示すべきであり,研究者の所属する関連学会自身もその必要性を会員に知らしめる義務があるというのが現在の自然科学研究の趨勢である.
これらを鑑み,日本DNA多型学会として,研究における利益相反(COI)に関する規程を策定し,会員の適正な研究活動を指導し,かつ社会への説明責任を果たすものとする.
I.目的
本規程の目的は,本学会が会員等に生じ得るCOI状態を適切にマネージメントすることにより,研究成果の発表等の活動を中立性と公明性を維持した状態で適正に推進させ,社会的責務を果たすことにある.
II.対象者
1)本学会会員
2)本学会学術集会等で発表する者
3)学会誌『DNA多型』への投稿者
4)本学会役員,各種委員会委員長と委員
5)1)~4)の対象者の配偶者,一親等内の親族,生計を共にする者
III.利益相反の対象となる活動
1)日本DNA多型学会学術集会の開催
2)本学会学術集会等での発表
3)学会誌『DNA多型』への投稿
4)その他,学会として,目的を達成するために行われる事業
IV.申告すべき事項
以下の状況を本学会の理事長に自己申告するものとする.なお,申告された内容の具体的な開示・公表の方法については別に細則で定める.
1)研究に関連する企業・法人組織や営利を目的とする団体(以下,企業・組織や団体という)の役員,顧問職,社員等への就任
2)研究に関連する企業の株式の保有
3)企業・組織や団体からの特許権等の使用料
4)企業・組織や団体から,会議の出席・発表に対し,研究者を拘束した時間・労力に対して支払われた日当(講演料等)
5)企業・組織や団体がパンフレット等の執筆に対して支払った原稿料
6)企業・組織や団体が提供する研究費(受託研究,共同研究,寄付金等)
7)企業・組織や団体からの高額機器の贈与,あるいは長期に及ぶ無償貸与
8)その他, 企業・組織や団体からの外国旅費・贈答品等の受領
1.実施方法
1)会員の責務
会員は研究成果を学会等で発表する場合,当該研究実施に関わるCOI状態を発表時に, 本学会細則にしたがい,所定の書式で適切に開示するものとする.
2)役員の責務
本学会の役員(理事長・副理事長・理事・監事),学術集会長,各種委員会委員長,特定の委員会委員等(以下、役員等)は本学会に関わるすべての事業活動に対して重要な役割と責務を担っていることから,当該事業に関わるCOI状況については,就任した時点で所定の書式にしたがい自己申告を行うものとする.また,就任後,新たにCOI状態が発生した場合は規定にしたがい,修正申告を行うものとする.
3)学術集会開催者の役割
学術集会開催責任者(学術集会長等)は,研究成果が発表される場合,その実施が本規程に沿ったものであることを検証し,これに反する演題については発表を差し止めるなどの措置を講ずることができる.この場合には,速やかに発表予定者に理由を付してその旨を通知する.また規程に抵触するか不明な場合は,速やかに本学会のCOI委員会に連絡し,その指示を仰ぐものとする.
4)編集委員会の役割
学会誌『DNA多型』編集委員会は,研究成果の原著論文等が発表される場合,その実施が本規程に沿ったものであることを検証し,これに反する場合には掲載を差し止めるなどの措置を講ずることができる.この場合,当該論文投稿者に理由を付してその旨を通知する.本規程に違反していたことが当該論文掲載後に判明した場合にも,編集委員長名でその旨を公表することができる. また規程に抵触するか不明な場合は,速やかに本学会の倫理委員会に連絡し,その指示を仰ぐものとする.
5)理事会の役割
評議員会は,役員等に本学会の事業を遂行するうえで,重大なCOI状態が生じた場合,あるいはCOIの自己申告が不適切であると認めた場合,COI委員会に諮問し,答申に基づいて改善措置等を指示することができる.
2.不服の申し立て
被措置者は,本学会に対し不服申立をすることができる.理事長は,これを受理した場合,速やかにCOI調査委員会を設置して審査を委ね,その答申を理事会で協議したうえで、その結果を不服申立者に通知する.
VII.細則の制定
本学会は,本規程を運用するために必要な実施要項を制定する.
VIII.規程の変更
理事会は,本規程の見直しのための審議を行い,変更することができる.
IX.施行日
本規程は平成29年1月1日より施行する.