一般社団法人日本DNA多型学会

DNA鑑定の指針(2019年)

DNA鑑定についての指針(2019年)

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目 次
1.はじめに
2.定義
3.DNA検査実施における留意事項
1)資料採取
2)資料の取り扱い
3)再鑑定への配慮
4)検査の品質の保証
5)鑑定書の記載について
4.検査するDNA領域の選択
5.型判定について
6.異同識別検査について
7.微量な資料、高度に変性した資料、PCR阻害物質などへの配慮
8.混合資料への配慮
9.血縁鑑定について
10.生物種の鑑定について

令和元年12月24日

DNA鑑定についての指針(2019年)

日本DNA多型学会
DNA鑑定検討委員会

1.はじめに

 1985年、英国のジェフェリーズ博士のDNA指紋法の発表以来、DNA多型解析技術を用いた個人識別、血縁関係の推定に関する研究は、飛躍的な発展を遂げてきた。この間の研究の発展は、ヒトゲノム及びDNA多型に関する知識の増加、検査用機器の開発、新しい検査法の開発、検査用キットの広がりなどによりなされてきたものである。DNA鑑定はこれらの成果のヒトの社会活動への応用であり、その適切な実施は、研究の進歩に応じて変わっていく必要がある。
 日本DNA多型学会は、1997年にDNA鑑定の適切な実施に関するわが国における学会レベルの指針として、「DNA鑑定についての指針」をまとめ発表した。また、2012年には、キットの導入や実用化によるDNA鑑定方法の進歩に鑑み、この指針は改訂された。
 現在、塩基配列の検査・解析機器の発展は目覚ましく、DNA多型解析手段も多様化してきている。このような中で日本DNA多型学会では、2019年、わが国で行われているヒトDNA鑑定の現状に、国際的なDNA多型検査に関する指針なども考慮に入れて、本指針をヒトDNA鑑定の現状に適したものに再び改訂することとした。なお、この指針も今後の学問の進歩や社会状況に応じて、適切に改訂されていくべきものである。

2.定義

 この指針において、DNA鑑定とは、刑事事件あるいは民事事件に関連して、裁判所の命令、司法警察員・検察官、民間などからの依頼を受け、各種資料中に含有されるDNAを抽出し、一部の構造を解析し、ヒトの個人識別や血縁鑑定、性別などの判定を行う鑑定業務を総称したものを呼ぶ。

3.DNA検査実施における留意事項

1) 資料の採取

 生体から資料を採取する場合は、検査の内容や目的について資料提供者に十分な説明を行い、文書でインフォームド・コンセントを得るなどの、適切な手続きをとる。未成年者に関しては、原則として親権者等の同意を得てから実施する。刑事事件で強制的に検査する必要がある場合は、裁判所が発付した身体検査令状や鑑定処分許可状を提示して行う。また、資料採取の際には、資料が提供者のものであることを証明できる状況を残す。
 対象者が死亡していたり、行方がわからない場合、対象者に由来する在宅資料、組織標本など、保存されていた体の一部の細胞や組織も利用可能である。

2) 資料の取り扱い

 DNA鑑定は提出された資料について実施されるものであり、鑑定人は資料の由来及び受け渡されるまでの保管について直接責任を持つものではない。しかし、その検査及び検査結果の評価に際しては、資料の由来、採取、保管状況(湿気の程度、保管温度、冷凍・冷蔵の保管状態、ヒトによる汚染)などがDNA鑑定に影響を与える点を確認する必要がある。なお、DNA鑑定を行う前の体液等の検査は資料の由来を確認するために有効なことがある。
 これらの点は、鑑定人が検査に当たり確認すべき点であると同時に、資料を採取・保管・引渡しをする者が留意しなければならない点でもある。

3) 再鑑定への配慮

 DNA鑑定を実施する資料は、再度収集可能なものを除き、原則的にDNA未抽出の資料につき再鑑定可能と考えられる量を残す。但し、資料をすべて消費する必要のある場合には、その必要性を説明できるように、鑑定結果として提示していない検査データも求めがあれば開示できるようにしなければならない。また、資料をすべて消費した場合には抽出したDNAを残すように努める。
 検査にかかる元のデータは資料の全量を消費するか否かにかかわらず、求めがあれば開示できるように保存する。また、特に斑痕などのように、物体に付着した資料からのDNA検査においては、検査前と検査後の状態がわかるように写真を残すなどの配慮をし、残余資料は他の資料と混同しないよう適切に保管し、検査終了後に返却する。

4) 検査の品質の保証

(1)DNA鑑定を実施する機関は、鑑定時の学問的背景に基づき、一般的に許容された検査法を鑑定に用いる。また、他の機関による再検証が容易なように、原則として市販の検査キットを用いて検査を行う。鑑定人が開発した独自の方法を用いる場合は、信頼できる科学的原理に基づく方法で、かつ、その方法の詳細や妥当性を検証したデータを積極的に開示して、他の機関による再検証が可能な方法でなくては、その検査の品質の保証にはならない。
(2)僅かな量のヒトに由来する汚染が検査結果に大きな影響を及ぼす可能性があるため、特に試薬の入ったものを含めた器具を素手で触れないこと、マスクを着用すること、器具や作業場所を操作目的ごとに使い分けることを配慮するだけでなく、検査場所のデコンタミネーション(DNAの除去)を適宜行う等に十分配慮して検査を行わなければならない。
(3)検査の全行程に渡り資料の取り違えの防止を念頭に作業を進めるべきである。
(4)DNA検査の手順は鑑定経過に記載する。検査キットを用いる場合はキットのプロトコールに準じるが、検出に影響を与える変更点は必ず記載する。変更した方法の妥当性を検証した経過及びデータも保管し、必要に応じて開示する。鑑定人が開発した独自の方法については、同じ方法が追試可能なように鑑定書に検査手順を記載しなければならない。
(5) DNA検査を複数回繰り返すなどの再現性を確認することは、品質管理において有用である。
(6)試薬や検出方法はDNA鑑定を実施する機関において十分な検証がなされたものを使用し、検査ごとに陽性対照や陰性対照、抽出コントロールを検査して試薬や方法の品質を確認すべきである。また、DNA鑑定に用いる検査機器に関しては、定期的な点検を実施し、適切な性能を維持していることを確認すべきである。
(7)DNA鑑定を実施する機関及び鑑定人は、鑑定・検査を公正・誠実に行うとともに、その検査に関する十分な知識を持ち、検査法に熟達していなければならない。また、鑑定人は、学会等に参加するなど研鑽を積み続け、適切な鑑定・検査が行えるように努めるべきである。
(8)DNA鑑定を実施する機関及び鑑定人は、DNA鑑定の際に作成された記録は適切に保管し、裁判所等からの要請に適切に対応できるようにする。

5) 鑑定書の記載について

 鑑定書の作成を求められる場合、鑑定の日付、場所、資料の性状、検査方法・経過、検査結果、考察、結論等を非専門家である関係者にも理解できるように、簡潔平明に記載するよう努力する。
 鑑定書には、考察や結論を述べるのに必要なデータを添付するなど、結論に至った理由や過程を説明して、第三者による鑑定結果の検証が容易に行えるよう配慮する。表現及び記載項目を限定した簡易な鑑定書の作成も可能ではあるが、その場合でも、裁判所等から詳細な説明や検査経過及び結果等の記録の提供を求められれば、適切に対応しなければならない。

4.検査するDNA領域の選択

 ヒトDNA鑑定に用いられる多型性を示すDNA領域では、現状ではマイクロサテライト(short tandem repeat : STR)多型が多い。STR多型は、常染色体、あるいは性染色体(X染色体及びY染色体)上のDNA領域(ローカス)が利用できる。これらのローカスは、市販の検査キットでも分析することができ、目的に合わせた応用が可能である。また、ミトコンドリアDNA多型や一塩基多型(single nucleotide polymorphisms:SNPs)等の塩基の違いに由来する多型も用いられている。検査に使用するローカスは、国内外において広く検討され、法医学的応用に際しての有用性が認められていて、日本人集団におけるDNA多型の種類(アリル)の出現頻度データが蓄積されており、多くの機関で追試可能なものを選択する。
 現在、法医学領域でDNA鑑定に用いられているSTR多型の検査ローカスは、たんぱく質に翻訳されない、いわゆる非コード領域にあるものが一般的で、遺伝病やその他の疾患に関連しないローカスが選択されてきている。しかしながら、検査項目によっては表現型のコード領域の多型検査が含まれたり、STR多型が染色体数の違いを表すこともあり得る。このような場合は、仮にその情報がプライバシーに介入する可能性が考えられる時は鑑定以外の目的で使用しない。また、このような表現型の情報はもちろん、DNA鑑定結果も個人情報であることを認識して、裁判等で取り扱う際には十分配慮して取り扱われなければならない。

5.型判定について

 現在のヒトDNA鑑定において主たる検査となっているのは常染色体STR多型検査である。この検査では、資料から抽出したDNAを用いて多数のSTRローカスを1回のPCRにより増幅した後、PCR産物をキャピラリー電気泳動装置により電気泳動し、泳動データの解析結果を基に型判定及び解釈を行う。この検査において、鑑定資料に単一個人に由来する高分子DNAが含まれ、分解等の変性や検査の阻害物質がなく、その検査結果が単一個人に由来するDNA型と判断できる場合の確認事項を以下に記す。

(1)PCR条件については、一定量の陽性対照DNAを用いた一定の増幅回数のPCRで、検査対象のすべてのローカスにおいて、アーティファクトを除き再現性のある安定した高さのピークが得られ、かつ陽性対照の型が全て正しく得られるPCR条件が採用されていること。
(2)陽性対照が正しく型判定されていること。
(3)DNAを含まない溶液(陰性対照)をPCRして電気泳動を行っても、アリルのピークが検出されないこと。
(4)各ローカスにおいて、アーティファクトと特殊な変異であるトリアレルを除いて、ピークの本数が1本(ホモ接合体)または2本(ヘテロ接合体)であること。
(5)各ローカスのアリルのピークが十分な高さを持ち、ヘテロ接合体ではピーク値が均等に近いこと。

 なお、鑑定資料は微量で高度に変性している場合や、複数のヒト由来のDNAが混在した資料(混合資料)がしばしばみられる。このような資料では、上記の単一個人に由来する高分子DNAにおける型判定及び解釈とは異なる取り扱いが必要となるため、第7項及び第8項に記載されている事項に配慮して型判定及び解釈を行う。
 ミトコンドリアDNA多型の場合には、検査領域、参照配列と比較したDNA型の記載法、ヘテロプラスミーの判定、ヒト由来のDNA混合資料の識別等について、一般に容認され得る方法を用いることが望ましい。
 その他、塩基の違い、塩基の挿入/欠失(In/del)等の多型の検出では、様々な方法が考案され実施されているが、これらの方法の型判定及び解釈についても、鑑定資料に起こりうる汚染、低分子化、PCR阻害物質、混合資料の影響などを考慮することが重要である。

 

6.異同識別検査について

 本指針において異同識別検査は、鑑定資料と対照資料(被疑者、被害者等のDNA資料)のDNAの由来が同一か否かを識別することを目的とした検査のことを言う。ヒトDNA鑑定における、常染色体STR多型検査において異同識別を行うためには、鑑定資料、対照資料共に第5項の単一個人に由来する高分子DNAが含まれ、その検査結果が単一個人に由来するDNA型と判断できる場合の確認事項を満たす必要がある。そのうえで鑑定資料、対照資料においてDNA型が異なる場合、各資料のDNAの由来は異なると判断できる。但し、体細胞変異が原因のトリアレルは、ある組織や体液にのみに観察されることもあることから、異同識別の際は注意が必要である。鑑定資料と対照資料でDNA型が一致し、各資料のDNAの由来が同一個人であるとして矛盾しない場合は、ある集団内の個人が偶然同じDNA型をもつ確率(random match probability : RMP)を計算するなどし、その結果からDNAの由来が同一個人と推定できるかを評価することが望ましい。その計算に使用するローカスやアリルの出現頻度は、多くの機関で追試可能なもので、十分なデータが蓄積されているものを選択する。

7.微量な資料、高度に変性した資料、PCR阻害物質などへの配慮

 資料の量が少なく十分なDNAが回収されない場合、高度に変性して低分子化したDNAしか得られない場合、DNA抽出液にPCR阻害物質の量が多い場合などに行ったPCR反応では、不安定なPCR増幅を引き起こすことがある。
 キャピラリー電気泳動による常染色体STR多型検査において、不安定なPCR増幅により、バランスの良いアリルピークを持った再現性のあるピークが得られない場合がある。つまり、一部のローカスのアリルピークの高さが極度に不均衡になる、本来検出されるべきアリルが検出されない(ドロップアウト)、アリルピークとスタターピーク(STRの本来のアリルの副産物で、アリルピークの周囲に現れる小さなピーク)の区別が困難となる、過剰なピークが検出されることなどが生じたり、これらの再現性が得られないことが起こり得る。特に資料の変性により、PCR増幅に有用なDNA量の減少やDNAの低分子化の程度が進むにつれ、僅かな汚染の影響も大きくなり得るため、過剰なピークが検出された場合は、ヒトの汚染による影響が加わった可能性も考える必要がでてくる。このような資料では、単一個人に由来する高分子DNAにおける型判定及び解釈とは異なる取り扱いが必要となり、個々のケースで不安定なPCR増幅の影響を考慮して電気泳動図の全体を評価し、解釈する必要がある。このような再現性の得られない場合の結果回答方法については、DNA鑑定を実施する各機関で回答方法を決める。
 その他、塩基の違い等による多型は、検出法により検査結果の表れ方は異なるが、微量な資料、高度に変性した資料、PCR阻害物質の量が多い場合などは、2つのアリルが均等にPCR増幅されない現象も起こり得ることも考慮のうえ、検査結果の意味を考察する必要がある。

8.混合資料への配慮

 資料の採取に当たっては、資料採取時のみでなく採取後にも関係者による汚染を防ぐ必要があるが、あらかじめ関係者のDNA型を調べておき、比較することにより、関係者による汚染の可能性を排除するような対策も有効である。また、状況によっては資料採取前から複数のヒト由来のDNAが混在した混合資料である可能性も考慮しなければならないこともある。
 ヒトDNA鑑定における一般的な常染色体STR多型検査では、非特異的なノイズピークやスタターピークを除いても、1ローカスに3本以上の一定基準値以上のピークが検出されたローカスが観察される場合は混合資料であることを疑う。しかし、あるローカスに3本のピークが観察されるトリアレルの個人も存在することから、混合であるかの評価をするためには、電気泳動図の全体を評価する必要がある。混合資料では、単一個人に由来する高分子DNAにおける型判定及び解釈とは異なる取り扱いが必要となる。さらに、混合資料は、同時に微量な資料であったり、高度に変性した資料であったり、PCR阻害物質を含む資料であったりもするので、そのような場合においては、第7項と同様な配慮が必要となる。

9.血縁鑑定について

 本指針において血縁鑑定とは、複数の人物由来のDNAの検査結果を比較し、生物学的に期待される血縁関係を示すか否かを検討する方法をよぶ。常染色体多型、Y染色体多型、X染色体多型、ミトコンドリアDNA多型などについて、それぞれの遺伝様式に合致するか否かを検討し血縁の有無を判定する。常染色体上の多型は男女の区別無く親から子に遺伝するため、一般的には、多数の常染色体STR多型検査を基本に血縁関係を検討する。その中で、男性を介した系統の血縁関係の確認にはY染色体STRハプロタイプ(一本の染色体上の複数のローカスの型の組み合わせ)が利用可能で、女性を介した系統の血縁関係の確認にはミトコンドリアDNA多型が利用できる。また、X染色体STR多型は父-娘の血縁や母からの隔世代の遺伝の有無等に応用できる。対象者間の検査結果において検査ローカスの遺伝様式に矛盾がない場合は、排除率、尤度比、肯定確率等を計算し、その結果から血縁の存在の確実性を評価する。その際、必要に応じてアリルの突然変異やローカス間の連鎖を考慮する。
 血縁鑑定の場合、生体から直接採取した資料であれば高分子のDNAが得られると考えられるところから、微量な資料や高度に変性した資料に関する問題点は通常の場合考える必要はない。しかし、身元不明者の個人識別や死亡した人間との血縁鑑定など、遺体から得た資料を検査する場合、DNAの状態によっては、微量な資料や高度に変性した資料のPCR増幅における問題点に準じた注意が必要となる。

10.生物種の鑑定について

 本指針において生物種の鑑定とは、ヒトDNA鑑定においてヒト以外の生物との区別や生物種を知ることが必要とされた場合を想定している。ヒト以外の動植物等の種類の記載が必要な場合、関連学会や研究機関に照会し、標準和名や学名の併記など、学術上共通した表現にすることが望ましい。また、ヒト以外の動植物等を主目的にしたDNA鑑定については、本指針に準拠した配慮をすべきである。

学術集会のご案内

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2024年
 11月28日(木)
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